腸内細菌叢
ヒトの体には、数百兆個、重さにして1~2 kgの細菌が常在しており、そのうちの90%が消化管に生息し、消化管に生息している細菌が腸内細菌叢そうと呼ばれています。人の細胞数が約60兆個なのに対して、はるかに多い細菌が腸内に生息しています。腸内細菌叢は、腸内フローラという呼び名が広く知られていますが、最近では「microbiota」や「microbiome」という言葉も多く用いられています。
近年、腸内細菌叢が生活習慣病、大腸がん、肝がん、うつ病、消化器疾患、アトピー性皮膚炎等、様々な疾患に関わることが明らかになってきました。これにともない、最近では一般向け遺伝子検査に加えて、腸内細菌叢の検査サービスも拡がってきており、次世代シーケンサーを用いた腸内細菌叢の網羅的な解析が短時間で可能になっています。
移植法
腸内細菌叢と疾患の治療という観点でいいますと、2013年にすでに米国で再発性クロストリジウム・ディフィシル感染症の患者に対し、健康なドナーの糞便を移植する糞便移植療法がFDAから許可されています。日本においては、慶應義塾大学病院で初めて臨床研究として潰瘍性大腸炎の患者に対する便移植が実施されました。現在では、腸内フローラ移植臨床研究会に所属する医療機関において、臨床研究の一環として自費診療で様々な疾患の患者に対して、腸内細菌叢の移植が行われています。
腸内細菌とガン
腸内細菌叢とがんについても注目を集めており、昨年の第76回日本癌学会学術総会では、「Dysbiosis that predisposes to cancer」のタイトルでシンポジウムが行われ大盛況でした。シンポジウムでは、腸内細菌叢とがん免疫、消化器がんと腸内細菌、腸内細菌叢を指標としたがん検査方法についての発表がありました。また、イピリムマブ、ニボルマブの登場以来、注目を集めている免疫チェックポイント阻害薬の効果に腸内細菌が影響することを明らかにした二つの興味深い研究が紹介されていました。
一つは、マウスのみのデータですが、担癌したメラノーマの増殖に対して抗PD-L1抗体のみの投与の場合に比べ、抗PD-L1抗体とBifidobacteriumの経口投与を合わせることによってさらに抑制することを明らかにした 2015年に『Science誌(November 27; 350(6264): 1084-1089)』に掲載された研究でした。もう一方は、こちらも2015年に『Science誌(November 27; 350(6264): 1079-1084)』に掲載された研究で、担癌したマウスおよびメラノーマの患者において、抗CTLA-4抗体の効果がBacteroidalesに依存するというものでした。
PubMedで腸内細菌叢(Intestinal flora)に関する投稿論文数を調べると、2014年以降、論文数が急激に増えており、今後さらに様々な疾患と腸内細菌叢の関わりが明らかになり、様々な疾患に対して腸内細菌叢をターゲットとした治療が進むと考えられます。
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